今日の本212(小野寺の弟・小野寺の姉)
おはようございます。小春日和が続くこの頃です。朝晩は少しまだ冷えます。本格的に暖かくなるのは来週になりそうですね。
今日の本は、西田征史さん、小野寺の弟・小野寺の姉、です。
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【ありがとうの香り】
早くに両親を亡くし一軒家でずっと一緒に二人で暮らす、
小野寺進(33)と小野寺より子(40)、小野寺の弟と姉の物語。
街を歩くと、名前で呼ばれることは少ない。
俺は「小野寺の弟」
姉ちゃんは「小野寺の姉」
そう呼ばれている。
俺は、姉ちゃんに先に “幸せ” になってほしい。
「そんなんだからあんたは結婚できないのよ」
「自分だってそうだろ」
「出来の悪い弟を持つと苦労するわ」
なんだかんだいって、姉ちゃんは俺に甘いんだ。
姉ちゃんは抜けているところもあるけれど、
やはり頼もしい。
ありがとう・・・サンキュー・・・おおきに。
どうやったらいいのか。うまく感謝できない。
「あの・・・なんか、ごめん」
姉ちゃんはいつも俺に感謝をする間も与えず先を歩く。
おかっぱ頭の後ろ姿。
冷たい空気の中に冬の匂いを感じた。
「ありがとうの香り」が見えた気がした。
恋人に結婚を見据えて一緒に住もうと言われて、
「うちに住めばいい」
「それって、違うよね」
「姉ちゃんがいるこの家には住みたくないか」
悲しさと悔しさと申し訳ない気持ち、そして怒りが、
交ぜになって俺の心を襲った。
「姉ちゃんがずっと一人だなんて決めつけんな!」
そのあと冷静になって話したけれども、
中学から親代わりで散々世話になってきたこととか。
俺を育てるためにいろいろ我慢させてきたこととか。
でも、結局わかってもらえなくて、別れた。
それでいいと思った。
今でも俺は、変わらず姉ちゃんの ”幸せ” を望んでいる。
姉ちゃんが ”幸せ” になる前に、
自分が幸せになろうなんて思わない。
そんなものは、俺にとっては ”幸せ” でもなんでもない。
「ありがとう」と告げようとすると逃げるように出ていった弟。
やはり「出来の悪い弟」だ。
お礼ぐらいゆっくり言わせてくれてもいいのに。
いつもそんなときに思うのは、小さいころと同じく、
「あいつ、おおきくなっちゃって」なのだから笑える。
お互いを心から思いやる姉と弟の不器用で微笑ましい日々。
お互いに「ありがとう」と面と向かって言える日はいつだろう。
こんなにもお互いを支えあいお互いを信頼し、
自分よりも先に幸せになってほしいと願う、
たぶんこんなに仲の良い兄弟はいないんじゃないか。
そう、思う。
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