今日の本194(路(ルウ))
おはようございます。オリンピックもたけなわ、もう後半に突入しましたね。連日放送される冬のオリンピック競技、今年は簡素な感じですが、やはり選手の皆さんが頑張っておられる姿を見えると、勇気をもらえますね。さて、寒波も到来していますが、寒さ対策をばっちりして、今週も頑張ってまいりましょう。
今日の本は、吉田修一さん、路(ルウ)、です。日本と台湾の共同でドラマ化されています。出演者:波瑠 井浦新 寺脇康文 高橋長英 炎亞綸(アーロン) 邵雨薇(シャオ・ユーウェイ) 楊烈(ヤン・リエ) 林美秀(リン・メイシュウ)など
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【決まったぞ。日本の新幹線が台湾を走る!】
窓から差し込む光が病床の妻のひざ元まで伸びていた。
なぁ。覚えているか。
窓の外を流れる景色に目をくれた。
台湾新幹線は山々の間を抜けていく。
膝に置いていた写真を、よく見えるように窓際に立てる。
なぁ。覚えているか。
台湾に新幹線が走るぞってわかったときのこと。
新幹線が開通したら、二人で台湾に行ってみるか。
そういったら、五年も先の話じゃないと君は笑った。
五年なんてあっという間だ。
七十過ぎたおじいちゃんが元気溌剌だとみっともないですよ。
そう言って笑った君は、俺の隣にいない。
見せたかった。
なにより君に見せたかった。
俺の故郷に君の故郷の新幹線が走るところを。
見せたかったんだ。
あの日一日きりの思い出。
ずっと忘れられずにいた。
もう会えないのかと、君からの連絡もなかった。
阪神大震災が起こって、君の出身地の近くだと知って。
僕はいてもいられず初めての飛行機に飛び乗った。
君の無事を信じて。
日本へ行けば君に会えるなんて思ってたわけじゃない。
僕が行くことで何か変わるわけじゃなかった。
君が無事であることを確認したかった。
近くに。せめて近くに。
あれから僕はずっと日本にいる。
忘れた日なんてなかった。
私のうっかりのせいでメモをなくして。
電話するって約束したのに。
あれから数年たって台湾の震災があった。
居てもたってもいられなくて台湾へ飛んだ。
あなたに会えるかなんてわからなかったけれど。
探さずにはいられなかった。
三日間ずっと探し続けてみつからなかった。
あなたの家にもいったけれど、あなたはいなかった。
今はあなたの出身の台湾で新幹線を作る仕事をしている。
あなたに似た人を見たってきいたらそこまでいったり。
名前も年齢も詳しい事なんて何も知らない。
でもあれは運命だったのだと思う。
あなたの見た景色を見ていたい。感じたい。
あれから私はずっと台湾にいる。
九年越しの再会。
新幹線の開通。
長すぎた。あまりにも長すぎた。
運命の出会いは思い出となってしまうくらい、遠かった。
でも、あの出会いがなければ今の僕はなかっただろう。
そう、あの出会いがなければ今の私はなかったと思う。
すれ違う運命。
それでも時は流れていく。
彼らが進む道はどこへ進むのだろう。
窓から見える景色のように、過ぎ去ってしまった時間は元には戻らない。
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