LFORT BLOG

今日の本51(木洩れ日に泳ぐ魚)

2020年10月20日

おはようございます。昨晩は寒かったですね。冷気で咳き込んでしまった方も多いのではないでしょうか?夜中は冷えるので、毛布などもう出して暖かい夜をお過ごしください。
今日の本は、恩田陸さん、木洩れ日に泳ぐ魚、です。

物語は、ある一組の男女の最後の一晩の語りあいである。お互い一緒になっていた荷物も分けて、引っ越しもほぼほぼ終わり、これからお互い違う生活を送り始める、明日には引き渡すというアパートの一室の一夜の物語です。
♯恩田陸 ♯木洩れ日に泳ぐ魚

「何かがおかしい」
読んでいて違和感を覚える。数ページ戻っては読み返す。読んでいて違和感を覚える。数ページ戻っては読み返す。その繰り返しだった。
「何かがおかしい」
あからさまなブラフがあちこちに見られる。勘違いさせるような表現の数々。うっすらと見える何本もの伏線。
「何かがおかしい。でもそれは何?」
自分の考えの可能性を潰してはヒントを見直すために読み直す。まだ…何かがおかしいという違和感は消えてくれない。どこで間違えた?名前?入れ替わり?ジェンダーの問題?男?女?恋人?友達?全くの他人?血縁?二人の関係は読み方次第でいろんなパターンがあてはまる。いろんなパターンを読んできた人が陥りがちな可能性の迷宮。自分の予想がことごとく裏切られる。可能性を潰していく。残った可能性を検証する。だからこそ面白く、考え深く、よくできた物語だと感心してしまう。
「何かがおかしい」
最期まで消えない違和感。きっとあなたも味わうことになる。一向に晴れないもやもやした気持ちに支配されるだろう。
ふたりの長年の共通の過去の記憶。最後だからと踏み込んで話し続けるうちに、お互いの記憶に少しずつ違和感を感じ始める二人。共通する記憶を持っていたはずなのに。どうやらそうでなはい、違うんだと分かった瞬間に、あれほど情熱的だった感情が、すぅっと醒めていってしまう。どこが違ったのか。どこで食い違ったのか。相手と同じ時間を共有したと思い込みたいばかりに、自分で自分の記憶を改ざんしたのか。
記憶というものはまったくもって不思議なもので、鮮明に思い出す「きっかけ」となるものは、毎日聞いていた音であったり言葉であったり見ていた風景だったりする。毎日聞いていたのに。毎日見ていたのに。なぜ今まで思い出せなかったのだろうと。でも実際記憶の引き金を引かれるのは意外な一瞬で突然だ。引き金を引かれると、もやがかかった頭の中が急にクリアになる。なぜ今の今まで忘れていたのだろう?と疑問に思うほど鮮明に思い出せる瞬間がある。
共有する記憶が特別なものであるほど、絆は深く切れがたい物になるのだろう。それを求めて二人の会話は続いていく。どんな関係よりも強い絆が欲しかった。どんなことがあっても、断ち切ることのできない絆が欲しかった。今後二人がどういう人生を送ろうとも、一生二人だけのものになる強い絆が。
踏み込んではいけない領域、踏み込んではいけない感情、抑えているからこそ燃え上がるのが情熱というものだったりするのだけれど、抑えなくて良くなったとわかった瞬間に、なぜこんなにも焦がれていたのだろうか・・・と不思議に思い、一瞬で醒めてしまうものなのである。人間とは難儀なものだと思う。感情に振り回されながら生きていかなくてはならない。大切だったものが一瞬でそうでなくなるのだ。
記憶の曖昧さ、自分でも知らなかった感情や執着心、アパートの一室のたった一シーンでここまで描けるものなのかと、感心してしまう、そんな一冊です。

カレンダー

10月 2020
« 9月   11月 »
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  

アーカイブ